第94回 99.05.31くらい それは夕立のように(第三回雑文祭参加作品)
 それはいつもいきなりやってくる。

 突然アラームが鳴り出したのだ。それで、わたしは起こされるハメになったのである。ああ、もうせっかくぐっすり寝ていたのになあ。なんだなんだ。一体何事なんだ。ふと窓の外を見ると、宇宙人がふらふらと浮いていた。窓をコンコンと叩いている。なるほど。こいつがアラームが鳴り出した原因か。まったくハタ迷惑な宇宙人だ。

 ああ、わたしの名前はみやちょ。宇宙船のパイロットだ。そして、ここは宇宙船の中である。パイロットになる前は、NASAで宇宙食の研究員をしていたのだ。宇宙船内でも出来る限り美味しい食事ができるようにと日夜開発に励んでいたのだ。
 何しろ宇宙船である。ナマモノを保存するのは大変なのだ。長期間の保存が効くような食品が好ましい。そこでわたしは胡麻を使った食品を提案した。これが大ヒットであった。一般にも売り出されたので知っている人も多いかも知れない。何を隠そう、「宇宙胡麻」を開発したのは、わたしだったのだ。えへん。

 そんな研究人生も順風満帆かと思いきや、配置転換により宇宙船のパイロットにされてしまったのだ。全然畑違いではないか。おそらく誰かの陰謀だろう。派閥争いに巻き込まれてしまったようだ。いったい誰が寝返ったのだ。そしてわたしは、ほとんど無謀なプロジェクトのパイロットとして、宇宙の遥か彼方まで旅をすることになったのだ。乗員はわたし一人、孤独な旅である。
 実は、以前より行なわれていたSETI計画の中で、700光年の彼方から怪しい電波が送られてきていることがわかったのである。解析したところ、どうも映像のようなモノが含まれているらしい。そこで700光年先までロケットを飛ばし、その電波の正体が何であるか確認することになったのだ。それがわたしの任務である。これはこれでSETI任重大なのだ。

 700光年先ということは、たとえ光速で進んだとしても700年かかるということだ。もちろん、光速で航行なんて出来るハズがない。小説や雑文じゃあるまいしね。計算では1800年もかかるらしい。通常人間の寿命は、そこまで長くない。そこで冷凍睡眠、つまりコールドスリープ処理が行なわれることになった。目的地に到着した時、自動的に解除される手筈になっていたのである。
 ところが、どうやら緊急事態が発生し、コールドスリープが解除されてしまったようだ。コントロールパネルを開いて時刻と日付のプロパティを確認したところ、どうやら出発してから1600年が経っていたようである。ええと、それならあと200年は寝られるな。二度寝しよっと。
 ……じゃない。ここで寝るわけにはいかないのだ。どうやら、まだ完全に目が覚めていないらしい。今、何をするべきかわかっていないのだ。頭はすっかりボケているのだ。1600年もの間、コールドスリープしていても、眠いものは眠いのだ。むしろ途中で起こされた為、睡眠不足といった感じなのだ。ああ、眠っても、眠っても、まだ眠い。

 ええと、窓の外にいる宇宙人をなんとかしないとならないのだな。もちろん任務には宇宙人とのファーストコンタクトも含まれているのだ。なんとしても宇宙人とコミュニケーションを取らねばならない。わたしの最初の仕事が今ここあるのだ。ここにSETIあり。
 しかし、宇宙人とコミュニケーションを取れと言われても大変困るのだ。何せ、向こうの文化は全くわからない。海のモノとも山のモノと知れない宇宙人を相手にしないとならないのだ。まるで旅館の食事のようである。海のSETI、山のSETIだ。

 窓の外の宇宙人には敵意は無さそうだ。取りあえずハッチを開け、宇宙人とコンタクトを取ってみることにした。

「どうも、お休み中のところ申し訳ありません。集金に伺いました」

 宇宙人は、いきなり喋り出した。翻訳機のようなものを通してだが、随分流暢な日本語であった。ああ、なんて御都合主義なんだ。コミュニーケションについては、余計な危惧だったようだ。ファーストコンタクトがこんなにスムーズにいくとは思っても見なかった。ところで、集金とは何なのだ?

「ええと、集金って何のことですか?」
「え? あんなに大きなパラボラアンテナを立てているのに、しらばっくれちゃって。もう。冗談がキツいですよ。集金と言ったら、受信料に決まっているじゃないですか」

 もしかしてSETI用に設置されているアンテナことを言っているのだろうか?

「いえ、あれは違うんです……」
「違わないですよ。だって、ちゃんとそこのテレビに受信されているじゃないですか」

 宇宙人は、解析用のモニタを指差してそう言った。たしかにモニタにはニュース番組らしき映像が映し出されていた。目の前にいる宇宙人と同じ姿をしている。しかし、いつのまにこのような映像が?
 もしかして、SETI計画で発見された怪しい電波とは、異星人のテレビ放送だったということか? それがここに来て電波が強くなり、映像を受信できるようになったということか? そして、それが有料放送だったということか?

「これって有料だったんですか?」
「もちろんです。受像機を所有している以上、受信料を支払うのは義務ですよ」

 有料放送というよりは国営放送のノリだな。

「しかし、わたしは地球人でその義務とは無関係……」
「ええ、わかってます。でも、異星人の方も無関係じゃありません。最近は地球人の方もよく観てらっしゃいますし、みんなちゃんと払ってくれています」
「へっ? 地球人って、ええと、これがファーストコンタクトでは……」
「何を1000年以上も前の話をしているんですか?」
「しかし、わたしは1600年前に地球を出発し……」
「えっ? あなたはもしかして……、嗚呼通りで旧式の宇宙船だと思った」

 事情はだいたい想像がついた。わたしがコールドスリープをしている間に宇宙船の技術が進歩し、その後に出発したパイロットがわたしを追い抜いて、宇宙人と先にファーストコンタクトを済ませてしまったということだろう。なるほど。これで日本語が通じるのも納得がいった。地球との交流が活発になり、当然日本語の翻訳機なども研究済みなのだろう。

「しかし、1600年も前から観ているとなると相当高いですよ」
「あの……、その……、今持ち合わせが無いんです。支払いはNASAの方へということで……」

 とりあえず、NHKの集金の対処法などを言ってみた。シドロモドロだ。

「ああ、そうですか。わかりました。ところで、その旧式の宇宙船じゃ帰るのも大変でしょう。わたしの宇宙船に乗っていきませんか? 実はこれから地球まで集金に行くところだったのです。まあ地球までなら2、3時間というところでしょうねえ。どうですか?」
「あっ……、ハイ。お願いします」

 わたしは即答した。やはり帰りたいもんなあ。今はもう知り合いがいないとしても。しかし、1600年後はそんなに高速航行が可能なのか。わたしが1600年かけて飛んできた距離がたったの2、3時間とはなあ。さすがに1600年後の技術である。まあ、それくらいは進歩するということか。しかし、なんてこった。わたしの1600年間は、一体何だったというのだろうか? 何の為のSETI計画だったのだろうか?

 1600年、SETIがチャラの旅かい?

 地球へ帰る最新型の宇宙船から外を見た。雨が降り注ぐように無数の星が流れては消えていった。更にスピードが上がり、ドップラー効果で星の光が虹のように変わっていった。そして何も見えなくなった。なるほど、これがワープというモノか。星の雨が虹に変わり、やがて真っ暗な夜に変わる。まるで夕立のようだ。
 わたしの心はすっかりと晴れあがった。これであと2、3時間もすると地球に帰れるのだ。1600年後の地球はどうなっているのかなあ。そういえば、銀行の口座に3万円ほど入れていたっけ。今頃利息がついて大金持ちになっていたりしてね。

 そんなのも、ちょっと悪くない。

 というワケで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。


 ↑これは日記猿人のなんたらボタンである。

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