第91回 98.09.29くらい 『とってもメデタイのだ』

 おーい。やったぞ。部長に昇進したぞーっ!!

 ああ、わたしの名前はみやちょ。某一流企業に勤めているサラリーマンだ。この度、大抜擢されて部長に昇進したのだ。で、早速そのことを愛する妻であるところのに電話で報告したのだ。すると妻は、大喜びしてくれたのだ。

「それじゃあ、今日の晩御飯は鯛でお祝いね♪」

 さすがは、愛する妻である。気が効いているというもんだ。わたしは定時が過ぎると、すぐさま急いで妻の元へ帰った。そして家に着きドアを開けたら、それはもう尾頭付きの豪勢な鯛がテーブルに並べられて……は、いなかった。テーブルの上には何も無かったのである。

「ごめんなさいね。あれからすぐにお魚屋さんに行ったんだけど、ここ最近鯛が不漁でお店にもほとんど入ってきていないんだって、鯛漁が不漁だなんてまったく矛盾しているわ」

 妻がダジャレを言った。でも、ダジャレを言うも可愛いなあ。えへへ。

「だから、今日は外で食事をしようと思ったの。日本料理のお店なら、きっと鯛があるはずよね。あの頃のようにデート気分でお食事しましょ♪」

 むふむふ。そういうことかあ。あの頃ということは、食事が終わった後、むふふな展開もあるわけだな。おおっ、愛する妻よ。今夜は、思い切り抱き締めてあげようではないか。むふむふむふ。

 そういうわけで、早速街に繰り出した。目指すは「千代」だ。日本料理の店である。ガイドブックによると、鯛料理で知られる京都の老舗の支店だそうだ。なんと3つ星がついている。
 しばらく歩くと、「千代」の看板が見えてきた。「タイ有りマス」なんていうノボリも上がっている。よしここだ。我々は「千代」の暖簾をくぐった。

「いらっしゃいアルよ」

 店の中からわけのわからない中国人が出てきた。はて? ここは日本料理屋ではなかったのか? 中華料理屋の間違いではないのか? ホントにここは「千代」なのか?

「アイヤー、ここは「千代」ある間違い無いアルよ。お客さん、わたし中国人だと思てバカするアルか?」

 ああ、これは済まないことをした。たしかに偏見であった。今やアメリカ人の寿司職人も多いと聞く。いや、アメリカ人だけではない。世界中の国の人達が、日本の飲食店で働いているそうだ。日本の飲食店には外国人労働者は無くてはならない存在らしい。中国人が日本料理屋で働いていても、何の不思議は無いではないか。そうだな。

「そういうことアルよ。わたし、総料理長の陳アルよ。よろしくのことアルよ。」

 ほう。陳さんというのか。どこかで聞いたことがあるような気がするが、まあいいや。それはさておき、我々は鯛の料理が食べたいのだが、何がお勧めがあるかい?

「トム・ヤン・クンなんてよろしいアルよ」

 ふむふむ。トム・ヤン・クンは美味そうだ。しかし、陳さんは冗談がキツい。なぜならば、それはタイ料理だからである。我々が食べたいのはタイ料理ではなくて、鯛の料理なのである。だいたいタイ料理を勧めるだなんて、それでも日本料理屋といえるのだろうか。日本料理屋なのだから日本の料理がいいのだ。まあいいや。わかった。自分で選ぶからメニューをくれ。

「料理に国境は無いアルのに」

 陳さんは、ブツブツ言いながらもメニューを持ってきた。

−お品書き−

・タイのお刺身………3500円
・タイの塩焼き………3800円
・タイの香草姿蒸し…4200円
・タイのから揚げ……3700円
・タイめし…………… 800円
・タイ焼き…………… 150円

 うーむ。随分高いなあ。タイ焼き150円は安いが……、ってタイ焼きといえば、アレではないか。お腹にアンコが入った泳ぐアレではないか。この店のことだ。たぶん、そういうオチだろう。危うく騙されるところだった。
 しかし、ホントは尾頭付きの塩焼きでも頼もうかと思ったけど予算が無いなあ。今日のところは、鯛めしで我慢しようか。まあ、鯛めしでもメデ鯛ことには変わりはないし、ねっ、

「いいわ。わたしもタイめしが食べたかったし」

 愛する妻もいいわと言うので、タイめしを注文した。

「アイヨ。タイめしアルよ」

 ふむ。しかし、運ばれてきたのは、ごく普通のご飯だった。いったい鯛は、どこにあるというのだろうか? これで鯛めしと言えるだろうのか? ハッ、さてはタイ米を出して「これがホントのタイめしアルよ」というオチではなかろうな。まったく冗談がキツい。

「なんのことアルね。本来タイめしはこういうものアルね。タイのすり身を米粒状態にして混ぜてアルね。食べてみればワカるアルよ」

 なるほど、そうなのか。それは知らなかった。では、一口食べてみようではないか。モグッ……??? やっぱりタダの飯ではないか。陳さんのウソツキ。

「そんなハズはないアルよ。一口いただくアルね。モグッ……??? アイヤー、間違ったアルよ。これは済まないアルよ」

 ふーん。間違えたとか何とか言っちゃって、さては最初から我々を騙すつもりだったな。

「イエイエ。ホントに間違えただけアルよ」

 ホントにか?

「タイはございませんアルよ」

 というわけで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。


 ↑これは日記猿人のなんたらボタンである。

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