第86回 98.03.12くらい 『ゴム人間と焼肉を食べる』

 わたしの知り合いにゴム人間が1人いる。そう1人だけだ。

 彼のゴム人間っぷりと言ったら、それはもうゴムで出来ているのではないかというくらいである。と言っても別に身体が柔らかいわけではないので要注意だ。そうではなくて、身体からゴムのニオイがするのだ。嗚呼ゴム臭い。
 もっともゴムというよりは、むしろコンドームのニオイと言った方が正解かもしれない。ゴムそのものではなくて、ローションというかゼリーとかのニオイだ。どうして人間の身体からこのようなニオイがするのかよくわからない。香水の類は特に使っていない。シャンプーや石鹸は、ごく普通のものを使っているのだ。だけど、なぜかコンドームのニオイがするんだよなあ。まあ、風俗通いでもしているんだろう。

 さて、今日はその彼と会う事になった。たいした用事ではない。久しぶりに飯でも一緒に食おうかという事だ。待ち合わせは駅である。コンコースの中央辺りにいてくれとのことであった。中央辺りだなんて随分大雑把だなあ。でも、「その駅は比較的人がいなくて空いているから、ちょっとくらい離れたところにいてもすぐに見つけられる。だから大丈夫だ」と言うのだ。わたしは、すっかり安心していたのだ。
 ところがだ。話が全然違うではないか。コンコースは大混雑だ。行き交う人でウジャウジャなのである。たった5メートル先も確認できないくらいだ。その時、わたしは思ったね。

 混むじゃない。コンコース

 まあ、それでも無事に彼と会う事ができた。だって、ゴムのニオイがするんだもん。ふとゴムのニオイがしてきた時、彼に違いないと思い、そのニオイの方に向かって行ったら、案の定、途方に暮れた顔をした彼が突っ立っていた。まったく。

 さて、運良く巡り会った後は、駅前の焼肉屋に行った。まったく色気も何も無いもんだが、男同士で色気も無かろう。何しろ腹が減ってしょうがないのだ。焼肉屋では、ロース×2、カルビ×2、ホルモン×2、タン塩×1を取りあえず注文した。嗚呼ビールも頼んだか。

 ロースを口に運ぼうとした時、彼が喋り始めた。

 この間さ。遊女に関する本を読んでショックを受けたんだ。遊女ってさ。あそこに紙を詰めて避妊していたらしいんだ。当然、そんな方法でうまくいくとは限らないじゃない。失敗して妊娠してしまうことが結構あったらしいんだ。
 で、そうなると、やっぱり子供を堕ろさなくちゃならないじゃない。その子供の堕ろし方っていうのがムゴくてさ。棒でその腹をガンガンと叩くんだ。昔の堕胎の方法は、こういうやり方が一般的だったらしいんだ。でも、その堕胎の方法は、妊婦に多大な負担をかけるんではないかと思ったんだ。

 ほう。それは、ダジャレか。むしゃ。むしゃ。

 いやいや。じゃなくて、この本を読んで、おれは情けなくなってしまったんだ。男はなんて無責任なんだろうってね。おれが風俗通いをしていることは知っているだろう? なんか気軽に行ってるけど、こんなことまで考えていなかったからなあ。おれって、人間失格なんじゃないかと落ち込んだんだ。まったく死にたくなってしまったよ。そこでふと思ったんだ。堕胎ズムの語源って、ここから来ているんじゃないかとね。

 そんな言葉は無いぞ。嗚呼カルビも美味いな。むしゃ。むしゃ。

 いや。それは、ともかくとして、やっぱり避妊って大切だと思ったんだ。これからは積極的に避妊するぞと思ったね。避妊GO!GO!!だ。

 そかそか。それでは、わたしはホルモンを戴くぞ。むしゃ。むしゃ。

 でさ。避妊と言ったら、やっぱりコンドームだよね。それで調べたんだ。コンドームってさ。昔からあったそうなんだ。でも、なんで遊女はそれを使わなかったというと、やっぱり性能が悪かったからみたい。その当時のコンドームは、ゴムじゃなくて魚の浮き袋とか羊の腸で出来ていたんだって。
 そりゃそうだよね。なんか分厚そうで感度が悪そうだし、結び目のところで女の子を傷つけてしまいそうだし。そうそう。丁度、そのホルモンを自分のチンコに結び付けているところを想像してみてよ。

 ん? なんだ? そんなコトを言っても、おまえに多く分けてはやらんぞ。むしゃむしゃ。いいから食え。ああ、近寄るな。ニオイで想像させる作戦だな。ああ、わかったわかった。じゃあ、おまえ食え。

 それじゃあ、いただきまーす。さあ、今度はそっちが喋る番ですよ。

 そうか。では、コンドームといえば日本製が世界一と言われているのは、知っているか?

 ん。むしゃ。むしゃ。そういう話を聞いたことがあるかもしれないなあ。むしゃ。むしゃ。

 ところがだ。アメリカでは、あまり日本製のコンドームが売られていないらしい。というよりは、アメリカにはそもそも輸出していないらしいのだ。何でもコンドームは、軍事兵器扱いになっているからとのことだ。

 へえ。それは、どうしてなの。むしゃ。むしゃ。

 そもそもだ。話は戦前に溯る。当時の日本の国策は、「産めよ増やせよ」ということだ。コンドームなど以ての外だった。戦争が始まると、その政策はもっと強化されて、コンドームメーカーはホトホト困り果てしまったのだ。
 そこで、とあるコンドームメーカーの社長さんが、このコンドームの製造技術を別な方面に利用できないかと考えたのだ。そして出来たのが、何を隠そう風船爆弾というヤツなのだ。それ以来、コンドームは軍事利用が可能なものとして、今でも輸出禁止品目の一つになっているのだ。

 へえ。なるほどねえ。あっ、上ミノ1人前追加お願いします。むしゃ。むしゃ。

 でも、ひとつだけ失敗したことがあったんだ。それは、性病の蔓延なのだ。まあ、性病と言っても淋病のことなんだが、しかも当時はそんな簡単に抗生物質が手に入るわけじゃない。抗生物質のような薬は、東南アジアなんかの戦地に送ることが優先されていたわけだ。淋病の蔓延は、結構深刻でね。そこには悲喜こもごものドラマがあったらしいよ。淋病ゴム風船とか言って。

 ふーん。でも、今アメリカじゃAIDSが流行っているでしょ。ビジネスチャンスだと思うのになあ。ああ、中生もひとつ。ゴクゴク。

 そう。その通りっ!! そこに目を付けたのが、何を隠そうサガミ・オリジナルだ。戦略兵器の扱いから除外されるように働きかけて、ついに輸出許可が降りたのだ。キャッチ・コピーもふるっているね。

 ボムじゃないコンドーム。

 ああ、おばちゃん。そろそろお勘定お願いね。

 というわけで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。


 ↑これは日記猿人のなんたらボタンである。

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