第82回 98.02.08くらい 『殺人凶器』

「警察だっ!! 開けろっ!!」

 ん? 一体わたしが、何をしたというのだろうか? だいたい初対面なのに敬語を使わないのだから呆れたもんだ。こんな無礼な人には戸を開けてやる必要もあるまい。

 あっ、わたしの名前は、みやちょ。本名はミヤコ蝶々と言うんだ。ホントはね。だけど、ちっちゃいから自分のみやちょと呼ぶのだ。……って、どこがちっちゃいと言うのだ。こんなことを言っていると、あそこまでちっちゃいと誤解されてしまうではないか。まったく。……って、言っているのは、わたしであった。
 それはともかく、ミヤコ蝶々を略せば、みやちょになるのである。キムタクやオザケンやロベカルみたいなものだ。常識である。

「そこにいるのはわかっているんだっ!! 開けないと、ドアをぶち破るぞっ!!」

 ドアをぶち破るとはいただけない。ぶち破られたら困る。戸締りが不用心では、泥棒が恐くて外出できないからだ。それに敷金も戻ってこなくなるだろう。大家さんに怒られてしまうではないか。そもそも、修理代を出すのは誰だと思っているんだ。もしかすると、警察で出してくれるかもしれない。それでも、結局税金からだろうなあ。まあ、こんなことで国民の負担を増やすのもなんだ。仕方が無いので出てやろう。どれどれ。

「奥さんは、どこにいる?」

 そんなことをいきなり言われても困る。実は、わたしも探しているくらいだ。どこかに良い人がいないだろうか? 誰か紹介してくれないだろうか?

「隠すとタメにならないぞっ!!」

 ふむ。ならば、タメになる話でもしてあげようか?

「早く君の奥さん。つまり、蝶々夫人を出せっ!!」

 どうやら警察の言い分では、何を勘違いしたのか、わたしの妻に用事があるらしい。しかし、ミヤコ蝶々と蝶々夫人は、あまり関係が無いぞ。ついでに言うと、お蝶夫人とも関係無い。そもそも、わたしには妻などいないのだ。わたしはどうすれば良いのだ? まだ見ぬ妻よ。おまえは、一体何をしたと言うのだ?

「君の妻は、とある殺人事件の重要参考人なのだ」

 とある殺人事件の鍵を握っているとのことらしい。まだ見ぬ妻よ。おまえは、殺人を犯してしまったというのか?

「いや。犯人は既に捕まっているのだ。しかし、凶器が問題になっているのだ」

 まだ見ぬわたしの妻と凶器とに何の関係があるのだろうか?

「関係というより、むしろ君の奥さんがそのものズバリ凶器なのだ」

 そうであったか。しかし、まだ見ぬわたしの妻が人間凶器だったとは。凶器の人間はイヤだなあ。狂気の人間ならまだしも。……って、それもイヤだが。しかし、まだ見ぬわたしの妻が、どうやって殺したんだろう。毒殺だろうか? 撲殺だろうか? 絞殺だろうか?

「刺殺だ。君の奥さん、つまり蝶々夫人は凶器なのだ。もっと正確に言うと、バタフライ・ワイフは凶器なのだ」

 そうか。そうであったか。バタフライ・ワイフときたか。それならば仕方が無い。でも、その考えは間違っていると思うのだ。ナイフが悪いわけではないのだ。だから、まだ見ぬわたしの妻をどうこう言うのは、お門違いというものだろう。ふむ。ここはひとつ有名な言葉をしんぜよう。

 ナイフが人を刺すのではなく、
    人がナイフを刺すのである


 というわけで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。


 ↑これは日記猿人のなんたらボタンである。

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