第65回 97.08.08くらい 『ヤかい?』

 わたしは、みやちょ。某大手都市銀行の重役である。

 今日は午後から取引先との打ち合わせだ。先方の社長は大のJリーグ好きで、世間話をすると必ずJリーグの話になるのだ。ちなみに我が行は、サッカーくじの取り扱い機関に名乗りを挙げようとしている。ちょっとしたことでも答えられないとナメられてしまうのだ。そこで先ほどから調べ物をしているのだが、なかなか資料が見つからない。どうしたものだろうか?

 調べ物というのは、サンフレッチェ対レイソルの資料である。レイソルが昇格した年には、まだカレカが現役でやっていたはずだ。あまり試合に出ていなかったと思うが、その数少ない試合の中でも、唯一Jリーグでイエローカードを貰ったのが、サンフレッチェとの試合だったと記憶している。
 たしかあの時は、カレカが強引にペナルティエリア内に切れ込んでいって、デフェンダーを引っかけてしまったのである。その時のディフェンダーはかなりの重傷で、倒れながらも「カレカー、カレカー」なんてわめいていたのだ。ただ、そのディフェンダーが誰だったかわからない。わたしは路木だったと記憶しているが、どうにも確証が得られないのだ。

 こういう時は、秘書に調べさせるのが一番だ。わたしは秘書のリナ君に尋ねた。
「路木倒れて、カレカの名を、呼び続けたコトがありますか?」

 ところで本音を言うと、わたしは秘書など要らないと思っているのだ。秘書を使うなどというのは、自分の能力の無さを示してるような気がしてならないからだ。優秀な人物を秘書に付けるくらいなら、その人物を然るべきポストに付けて、もっと別な働きをさせるべきだと思うのだ。
 しかし、秘書をつけることがこの銀行の慣習である。わたし一人が秘書を付けないというと、反発を買ってしまうのだ。何しろ多くの重役達は、秘書を付けたくてしかたがないのだ。それも仕事のできる秘書じゃなくて、上品で可愛い娘を自分の側に置いておきたいだけなのである。まったく、このスケベじじいらが。

 最初、このリナ君も秘書は重役の(夜の)お相手をするものと勘違いをしていたようだ。
「わたし、濡れてきちゃった」なんて誘いをかけてくるので驚いてしまった。
 わたしは、そういうことが嫌いなのである。その時は丁重にお断りをした。
「一人、ショーツ汚さないで、秘書リナ好きなわけじゃないのよ」

 それでも、重役の中には秘書に対してセクハラをする者がいる事は、事実である。役職のある者が、その地位を盾に関係を迫るというのは、卑怯というモノだ。わたしは、リナ君の誘うを寄せ付けないように毅然とした態度で接していた。ところが逆に、こうした態度もまたセクハラと勘違いされてしまうから困ったものだ。端からは、恫喝することで関係を迫ろうとしているように見えるらしい。それで以前頭取から注意を受けてしまった。
「役職あるなら卑怯な脅しよ、リナを怒鳴りすぎる」

 ところがだ。甘くすると今度は段々とツケあがってくるから困ったものだ。やはり、リナ君も若いムスメなのだ。今日など、秋頃にパリに行ってくるので2週間ほど休ませてほしいといってきたのだ。
 まあ、仕事上はなんとかなるので、仕方が無くOKを出した。それにしても、2週間とは長過ぎだ。旅行費用もバカにならないだろう。若い娘にしては随分と金を持っているというもんだ。こうなるとイヤミのひとつでも言いたくなってくる。
「オータムにパリかい? 高い費用、高い費用」

 しかし、リナ君は、そんなことなど全く気にもせず、「ちゃんとお土産を買ってきますからね。わたしの買い物のついでだけど。ブランド物のネクタイなんかどうかしら?」なんて言うのだ。
 どうやら、目的はブランド物漁りらしい。ますますもって、よくそんなにお金があるなあという感じだ。うちの銀行は、そこまで給料出してないぞ。

 しかし、家に帰ったら、その理由がすぐにわかった。郵便受けには宅配ビデオのチラシが入っていたのだ。そのチラシにリナ君の顔写真があった。タイトルは、「リナの秘密」だ。パート3まである。
 なんてこった。宅配ビデオというからには裏ビデオだろう。まさか、こんなアルバイトをしていたとは。それなら、パリに行ってブランド物漁りをするくらいのお金を持っているのも頷けるというもんだ。

 取りあえず、事実確認の為、そのビデオを注文した。届いたビデオを観てみたら、やはり紛れもなくリナ君のあられもない姿だった。

 しかし……、あのリナ君が……、こんな……、ことまで……

 ハッ。わたしとしたことが、すっかり興奮してしまったようだ。なんていうか、普段近くにいる人だと思うと、生々しく感じられてしまって、余計興奮してしまうのだ。実のところ、わたしはリナ君の事が好きだったのかもしれない。今までは重役という立場が邪魔をして、素直な気持ちになれないだけだったのかもしれない。
 ここは、素直に一本ヌク事にしよう。立場上、リナ君に手を出すのはまずいが、ビデオを見る程度ならいいだろう。そういうワケで、
「裏見ます、裏見ます、あんたのビデオ、ヌクまで」

 というわけで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。


 ↑これは日記猿人のなんたらボタンである。

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