第53回 97.03.19くらい 『裏街のドクター』

 俺の名前は、みやちょ。この街で医業を営んでいる。いわゆる開業医というやつだ。

 この街には、2種類の人間が住んでいる。それはヤクザと売春婦だ。男はヤクザで女は売春婦。少なくとも俺は、夜のこの街ではこの2種類の人間しか見たことがない。もっとも、夜にしか開業していないので、そう思うだけかもしれない。しかし、俺にとってこの街はそういう所だ。
 こんな街にも医者は必要だ。いや、こんな街だからこそ、医者が必要なのだ。なぜならば、この街の人間達は日の当たる所に出ることができないのだ。つまり、普通の医者にはかかるコトができない。そういった人間達を癒すのが俺の仕事だ。

 今日の最後の患者は、変わっていた。

 午前2時を過ぎた辺りだ。患者も途切れ落ち着いたので、そろそろ閉めようかと入り口の明かりを消し、バーボンを一杯飲っていた時のコトだ。トントンとノックする音が聞こえてきた。

「まだ、診てもらえますか?」
 ドアを開けると、女性は不安そうに言ってきた。

 俺は医者だ。患者がいれば診るのが義務だ。たとえ酔っていようとだ。
「さあ、入りなさい」
 俺は、彼女を診察室に招き入れた。

 彼女の名前は、ユフィと言った。カルテにはそう記載した。だが、おそらく偽名だろう。俺の所に来る患者で本名を名乗る者はいない。いや、この街で本名を名乗る者などいない。俺は医者だ。守秘義務がある。本名であったらここには書けない。
 もし、ユフィに会いたかったらFという店に行くといい。ユフィという名前で働いている筈だ。彼女もこの街の人間だ。彼女の事情もわかるだろう。もし、彼女がこの街の人間でないとすれば、とある街の南にある森を探すといい。運が良ければ会えるだろう。

「それで、どういった症状なんだい?」
 取りあえず、俺は尋ねた。

「わたし、性的興奮時無呼吸症なんです。オルガズムスに達すると息が止まってしまうんです」
 彼女は安心したのか、堰を切ったように語り始めた。

 性的興奮時無呼吸症。初めて聞く病名だ。睡眠時無呼吸症という病気がある。その名の通り、睡眠中に呼吸が止まってしまうという病気だ。長いと1分以上も息が止まる事がある。大抵は問題無いが、あまりに無呼吸の時間が長いと心臓に負担をかけ、突然死につながる事もある。放置しておくと危険な病気である。
 彼女の症状も似たようなものだろう。ましてや、彼女は職業柄、死活問題になりかねない。俺は早速診断に取り掛かった。

「ユフィちゃん。さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね」
「あはん」
「奇麗な肌をしてるねえ。おっぱいなんかもプリンプリンだしぃ」
「あはん」
「さあ、モミモミしましょう」
「あはん」
「さて、下の方はどうなっているのかな? あら、ユフィちゃん。顔に似合わずエッチだねえ」
「あはん」
「この辺はどうかな?」
「あはん」
「さあ、そろそろ行くよ」
「あはん」
「いい湯だな」
「あははん」

 ……ってな感じで、ユフィちゃんを愛撫した。症状を知るには、性的興奮を与えなきゃ始まらないからだ。いやはや、それにしても医者って良いものだなあ。本来なら金を取られるところが、金をもらってこんなコトやあんなコトができるなんて、嗚呼役得役得。

 そんなわけで、ユフィちゃんはオルガスムスに達した。つまり、イッてしまった。わたしも同時にイッてしまったが、そんなことはどうでもいい。で、結果はどうだったかというと、確かにユフィちゃんは、息をゼーゼーさせて苦しそうにもだえていた。それは、もう息も絶え絶えという感じだ。あるいは、イキ、モダエ、モダエと言っても、過言ではない。

 というワケで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。


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