第13回 96.09.26くらい 『シャツとわたし』

 さて、昨日の続きである。昨日は、敢えてわたしが商売で何を売っていたかを書かなかったのだ。投票の反応が良ければ今日書くと言ってので、期待して投票ボタンを押してくれた人もいるに違いない。謹んで感謝するので、ありがたく思え。
 ええと、その昔売っていたのは、何を隠そうシャツである。似ているがシャブではない。シャブは、売るものではない。打つものだ。シャブを売ったら逮捕されてしまうではないか。って、打ってもダメだって。

 わたしがシャツを売ろうと思いついたのは、彼女と出会ったからである。彼女に初めて出会ったのは、4年前の春のことである。その日わたしは、仕事の帰り道にワナにかかった1匹の虫を助けたのである。わたしは、虫に詳しくないのでよくわからないが、芋虫のような虫だった。わたしは、ワナにかかった虫をちょっと不憫に思い、逃がしてあげたのである。逃がしてあげると、まるで「ありがとう」と言うかのように這っていったのである。

 そして、その晩のことである。カレーライスを食べながらテレビを見ていたら、突然チャイムが鳴った。ピンポーン。

「こんな時間に誰だろう?」といぶかしげに玄関のドアを開けた。するとそこには美しい女性が立っていのであるた。その女性は、開口一番「みやちょさんのお嫁にしてください」と言ってきたのだ。そして、わたしは結婚したのである。1Kのアパートであったが、楽しい結婚生活が始まったのだ。

 ある日、わたしが「明日、着るものがないぞ」と大騒ぎした。その時彼女は、慌てず騒がず「それでは、わたしが用意しましょう。でも、こちらの部屋は決して覗かないでくださいよ。絶対に……」と言って、奥の部屋にこもってしまったのである。1Kのアパートなのに。
 翌朝、起きてみると枕元に1枚のTシャツがあった。そして、彼女はさわやかに「これで着るものができましたわよ」と微笑んだ。そのTシャツは、素晴らしい出来であった。
 ちなみにわたしは、シャツが好きだ。どれくらい好きかというと、裸の時以外はいつも身につけているくらい好きなのだ。だから、そのTシャツが素晴らしい出来栄えだということがよくわかった。特に木綿の手触りが最高であった。これならば、会社にも着て行っても恥ずかしくないというもんだ。

 しかし、わたしもこのままでは終わらない。このTシャツは、商売になると踏んだのである。そして会社を辞め、店を開くことにしたのである。その店が何を隠そう、「殿様のアイディア」だったのである。
 わたしもアイディアマンと言われた男である。Tシャツもそのままでは売らなかった。Tシャツの柄として指圧のツボをプリントしたのである。キャッチコピーは、「シャツの心は母心。押せば命の泉湧く」である。そのTシャツは飛ぶように売れた。

 しかし、良い事ばかりでは無かった。ライバル店がすかさず真似てコピー商品を売り出してきたのである。これがホントの「偽シャツ事件」だ。
 それでも、ニセモノはスグに排除された。なにしろこちらの品物には、コピー防止の目的でプリントに磁性体インクを使用していたのである。磁気のチェックをすれば、本物かニセモノかはスグにわかるのだ。しかも、磁気の効果で血行が良くなり、肩凝りを解消できるという効果もあったのだ。

 結局、ニセモノ業者は、警察によって逮捕された。この時、わたしは逮捕してくれた警官に、お礼として特注のシャツを送ったのである。
 どこがどう特注だったかというと、普通のTシャツは、こう左右に袖が出ているものだが、特注品は左側の上下に2つの袖を付けたものであった。名づけて「Kシャツ」というのだ。ビジュアル的な連想力が弱い人の為に言っておくと、Tシャツは、こう広げた時にTの字の形をしているからTシャツなのだが、KシャツはKの字の形をしているのだ。
 Kシャツは大変好評だったらしく、その警官は、今でも着ているそうだ。街でシャツの左側から2本の腕を出している人を見かけたら、その人はきっとその時の警官である。街を歩く時は注意して見てみよう。

 さて、こうして順風満帆に見えたわたしたちだが、その破局はアッサリやってきた。わたしは、彼女がどうやってシャツを作っているのか気になって、ついつい作業中の彼女の部屋を開けてしまったのである。
 部屋を覗いてわたしは唖然とした。部屋の中には彼女の姿はなく、1匹の虫が糸を吐き出しながら、コットンコットンとTシャツを作っていたのである。Tシャツだけにコットンなのだ。それはともかく、わたしは驚いて思わずこう口走ってしまったのである。「君はカイコだっ!!」

 するとその虫は、「とうとう見てしまったんですね。あれほど言っておいたのに。わかりました。この最後のTシャツを作り終えたら、わたしは去ります」と言い、翌朝出ていってしまったのだ。ずっと家に居て欲しかったのに。クビになってしまったとの誤解であった。

 さて、その後の「殿様のアイディア」はどうなったかというと、実は予想に反して結構順調だったのである。ただ、新商品の開発を怠ったために、経営が悪化してしまったのだ。実は、商品は男物ばかりで女物を作らなかったのである。これが、ホントの「For man経営」なのである。

 というワケで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。

 断っておくがこれは作り話である。なぜならばカイコが作るのは、

 断っておくが、これは日記猿人の投票ボタンである。

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