第99回 01.12.24くらい サンタが消えた日
 今年もそろそろサンタが来る頃だ。準備にぬかりないはずだが、もう一度念入りに確認しておいた方がいいだろう。部下達も例年以上によく働いてくれる。きっと今年こそは上手く行くはずだ。今年こそは……

 あっ、どうも。クリスマスの準備でバタバタしているわたしの名前はみやちょ。何を隠そうトナカイである。普段は山の中でひっそりのんびり暮らしているのだが、毎年この季節だけは色々と忙しいのである。それというのもサンタの所為だ。嗚呼、サンタさえ来なければ、我々は平和に暮らしていられたはずなのに。

 ある年のこと。我々のところに突然サンタがやってきた。最初は甘い言葉を持って近づいてきた。この年は冷害により木の芽がろくに育たなかった。そのため山は大変な食糧難に陥っていたのである。そんなところ、サンタはトナカイ達に食料を配り回ったのだ。嗚呼、なんて良い人なのだろう。我々は素直に感謝した。サンタは全てのトナカイ達に食料を配り終わると、仲間の一頭を言葉巧みに誘い出した。自分達の仕事を手伝って欲しいと。

「ところで君、明日の晩、わしの仕事を手伝ってくれないか。一晩だけの仕事なのだが」
「っていうと、どんな仕事で?」
「ルート配送だ。各家庭を訪問して回る。なーに簡単なものよ」
「あっしは鼻が赤いもんで、人前に出るのはこっ恥ずかしいです」
「人目につかないような仕事だから平気平気。それにむしろ赤い鼻は喜ばしいくらいだ」
「へえ、そんなもんですかねえ」
「手伝ってくれたら、もっと多くの食料を分けてやるぞ」
「よし、のった!」

 そして、次の日、仲間は帰ってこなかった。一体何処へ行ったのだろうか。我々の間で話題になった。きっとそのままサンタのところに居ついてしまったのだろう。たしかにサンタのところは居心地が良さそうだ。きっと毎日美味しいものをたらふく戴いているに違いない。あやかりたいものだ。我々はそう思っていた。

 次の年もサンタはやってきた。同じように食料を配り、そして同じように仲間のうちの一頭を仕事へ誘い出そうとした。はて、去年仕事をした仲間がいたはずだが……。不可解に思った我々は、去年の彼はどうしたのかと尋ねてみた。サンタ曰く、次の日の朝には帰っていったとのことであった。そんなバカな。だとすると、あいつは一体何処へ行ったというのだろうか。
 しかし、この時まではまだサンタを疑ってはいなかった。きっと食料を独り占めしようと逃げてしまったのだろう。なんて薄情なやつだ。しかし、この年サンタに誘われて仕事に行った仲間も帰ってくることがなかった。その後、数年間、同じようなことが続いた。

 さすがにサンタを疑わざるを得ない。そこでわたしはこっそり後をつけることにした。その夜わたしが見たのは、この世のものとは思えない、目を覆うほどの惨劇であった。仲間は縄で縛られムチを打たれていた。これでロウソクがあれば、趣味の世界だと思うところだが、そうではなかった。仲間は重いソリを引かされるという重労働に喘いでいたのだ。
 なんとか止めさせようと後を追った。しかし、すぐに引き離されてしまった。空へと飛び去っていってしまったからである。空を飛ばれては追いかけることなどできない。しかし、何故あいつは空を飛べるのだろうか。肉体改造手術を受けて空を飛べるような装置を埋め込まれたに違いない。とりあえず、鼻の部分にハロゲンランプが埋め込まれていたことだけは確認できた。肉体を改造するだなんて、やつはショッカーか。悪の組織そのものではないか。

 一晩経ってサンタは戻ってきた。仲間のトナカイは一晩中休みなく働かされた所為で、すっかり疲弊していた。既に息も絶え絶えである。このままでは死んでしまう。そう思った瞬間、サンタは仲間の首に手をかけた。仲間は叫ぶ間もなく、息絶えてしまった。
 わたしは、陰から見ていて何もできなかった。恐ろしくて足がすくんでしまったのだ。その晩、仲間はスープになった。サンタの足元には大量の角が転がっていた。あの角は……、見覚えのある角がいくつもあった。おのれ。サンタめ。よくも我々の仲間を食い物にしてくれたな。

 その次の年からサンタとの攻防が始まった。しかし、我々の抵抗は上手くいかなかった。我々には知識が無かった。サンタがばら撒く食料を口にすると、抵抗することができなくなってしまうのである。食料を口にした瞬間、仲間の一頭が魅入られるようにサンタの後をついていってしまう。
 食料、それはせんべいであった。あのせんべいを口にすると、首を縦に振らずにはいられなくなってしまうのである。もっと欲しくなってしまうのだ。誘惑に負け、思わずサンタに従ってしまう。薬……、そうか敵は我々を薬漬けにして思い通り操ろうという魂胆だったのか。なんとも性質が悪いやつだ。
 たしか奈良の方には鹿せんべいというものがあるという。奈良の鹿たちは、鹿せんべいによって野生を失い、すっかり骨抜きにされてしまっているらしい。。奈良公園などすっかりアヘン窟さながらの様相だと聞いた。おそらく、サンタが持ってくる食料とは鹿せんべいなのだろう。鹿せんべいには、我々シカ科の動物に対して中毒を起こすような成分が含まれているに違いない

 準備を整えなければ……。背に腹は変えられない。我々は縄張りを広げ、仲間を増やし、資金を集め、組織を強固なものに築き上げた。周辺からはすっかり恐れられる組織へと成長していったのである。鹿せんべいへの対抗策も編み出した。そして今年のことである。

「親分、あの赤い服がのこのことやってきましたぜ」
「ご苦労。それはともかく「親分」はやめろと何度言ったらわかるのだ」
「へいっ」
「まったく……、もう少し品を良くしないとなあ。世間体が悪くてたまらん」


 サンタはやってきた。いつものように赤い服を着ている。大量の煎餅が入った大きな袋も持っている。そして、例のごとく鹿せんべいをバラ撒いた。

「鹿せんべい攻撃など効かぬぞ。この日のために耐性をつけてきたからな」
「何を。わしの武器は鹿せんべいだけではないわ。ほれ、この通り鹿八つ橋だってあるわ」

 敵は、鹿八つ橋の乱れ撃ちをしてきた。物陰に隠れようとした瞬間、八つ橋の硬い角が額をかすった。額からは一筋の血が流れた。大丈夫。かすり傷だ。わたしは短刀に手をかけ、一気にサンタの前へ踊り出た。

「なんだ。奈良かと思ったら、京都から来たサンタだったか。ならばもう一度J2に落とすまでよ。地獄を見ろやっ!」

 そう言った瞬間、血しぶきがあがった。サンタはその場に倒れこんだ。

「うっ、うう……、なんじゃ。飢餓から救ってやった恩も忘れやがって……」
「そうはいかぬわ。なにしろ、わしは仁義なきトナカイじゃけんのう」

 こうして長年の抗争は幕を閉じた。我々の勝利である。もう二度とサンタはやってこないはずだ。

 そして、クリスマス・イブの夜、とある家でのこと。

「あー、早くサンタさんが来ないかなあ」
「うーん。今年はサンタさん来ないかもよ」
「えー、ぼく、良い子にしてたもん」
「そうかなあ。この間のテストで0点取ったのは誰かなあ」
「だってえ。先生が……、だってえ」
「ひょっとこみたいに口尖らせないの。ひょっとこにしてたら本当にサンタさん来ないわよ」
「えっ? 何でさあ?」

 ひょっとこには来ない ひとりきりのクリスマス・イブ
 Silent night  Holy night

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